第5回 慢性腎不全の増悪因子
慢性腎不全は、不可逆的な(改善しない)疾患です。さらに、既往歴や既往の程度によって病期が進行する程度はさまざまです。また、腎不全が進行すればするほど、加速がつきやすくなるのも腎不全の特徴です。治療の目的は悪化させず、透析にならないことです。
慢性腎不全を悪化されるものには以下のようなものがあります。
※1 重い腎臓病や慢性腎不全の方は主治医の先生に相談しましょう。
① 塩分の過剰摂取
食塩を過剰に摂取すると、腎臓で血液をろ過する際に過剰な負担となること(糸球体過剰濾過)、尿蛋白の増加に関連していることが報告されています。
② たんぱく質の過剰摂取
たんぱく質は、体の中で代謝されて尿素窒素(BUN)に分解されます。たんぱく質の過剰摂取により尿素窒素が過剰となると、それを排泄させるために、腎臓の糸球体に過剰な負担がかかります。
腎機能が低下すると、増加した老廃物が体内に蓄積し、尿毒症を引き起こすこともあります。
③ 高血圧
高血圧が長く続くと、腎臓の糸球体へ血液を送る輸入細動脈に圧力がかかるため、血管内の細胞がそれに反応して増殖し、血管の内腔が狭くなります(細動脈硬化)。
豊富な血流が必要な糸球体で血液の流れが悪くなると、徐々に糸球体は硬化してしまいます。糸球体が硬化すると、腎機能が低下し(老廃物の濾過ができなくなる)、慢性腎不全に至ります。
④ ストレス・疲労
ストレスや疲労は血圧を上昇させる要因となり、腎臓に負担がかかってしまいます。
⑤ 心不全
心不全で心機能が低下すると、(1)腎臓への血流量減少、(2)神経やホルモンのバランスの崩壊、(3)腎臓の静脈圧上昇、の3点から腎機能が低下します。
(1)腎臓への血流量減少
心不全では左心室の収縮能が大幅に低下すると、心臓から全身への血流が少なくなっていきます。全身への血流が滞ると腎臓へ流れる血流量も少なくなり、腎機能が低下します。
(2)神経やホルモンのバランスの崩壊
心臓の機能が低下すると、体の主要な臓器である脳や心臓への血流を維持するため、交感神経やホルモンが活動し始め、血圧維持や心臓の収縮能を高めようと働きます。
一時的にはこの作用で心機能が維持できますが、長く続くと心臓が疲れて動きが悪くなり血流が低下します。これにより、腎臓へ流れる血液も少なくなるため、腎機能が低下します。
(3)腎臓の静脈圧上昇
右側の心臓の機能が低下することで全身の静脈を流れる血液が滞り(うっ血)、腎静脈圧や大静脈の圧が上昇します。腎静脈のうっ血により腎臓の間質(尿細管と尿細管の間の組織のこと)がむくみ、糸球体濾過量が低下します。
⑥ 脱水
脱水症状になると、腎臓への血流が減少し老廃物がろ過されずに体に蓄積して腎臓の炎症を起こし、糸球体自体が傷付くことで腎臓の機能が低下します。
⑦ 感染症(細菌性)
体の中に老廃物が蓄積した状態では、免疫機能が低下し、体を守る防御力の低下が起こります。そのため、O157などの細菌による食中毒が発症しやすく重症化しやすいので注意が必要です。
⑧ 妊娠※1
妊娠するとお母さんの腎臓に流れる血液の量は、妊娠前と比べて約30%、糸球体で血液をろ過する量は約50~60%増えます。そのため、お母さんの腎臓には大きな負担がかかるため、主治医の先生と相談して妊娠の計画を立てましょう。
⑨ 薬(解熱剤、抗生剤)
・非ステロイド性抗炎症薬〔NSAIDs(エヌセイズ)〕
痛み止めや解熱剤として使用する薬(バファリン、ボルタレン、ロキソニンなど)で、肩こり・腰痛の時や発熱時などに使う薬です。腎臓の血液の流れを悪くすることがあるため、慢性腎不全の方は注意が必要です。
・抗生剤
肺炎や膀胱炎、腎炎、腹膜炎などにかかった時に、体内の細菌を攻撃する目的で使用する薬です。使い続けると腎臓に溜まり、腎臓の働きを悪くしてしまうことがあるため、注意が必要です。